2008年06月29日

メリケンパーク・ララバイvol.1 

メリケンパーク・ララバイvol.1 
メリケン2008.6.29

どこに行くというあてはなかった。

ただどこかに行きたかった。

できれば世界の果てまで、行けるだろうか。



彼女のそばにいるのは、買ったばかりの赤いGTR、それだけだった。

世界に一台だけの、カスタムメイドのオープンモデルだ。



このクルマだけが、私をどこかへ連れて行ってくれるだろう、とヒトミは思った。



値段は1200万円、オープンカーにしてもらったので、

少し高いが、別れた彼の最後のプレゼントだ。



彼と別れてから、もう1ヶ月になる。

リッチなのが、ただ一つの彼の魅力だったが、それだけでは何か物足りなかった。

結局のところ、愛を交わすために存在する街で、

愛を使い果たしてしまったのかもしれない。



澄んだ、エメラルドブルーの空がどこまでも広がっている。

その下で、KOBEの街は少し悲しそうで、まぶしすぎるほど明るい。

全てをリセットするには、最高の日だ。



遠くから来た、見知らぬ貨物船が

汽笛を鳴らして出て行く。


彼女を祝福しているようだ。

6月とは思えない、乾いた爽やかな風が吹く。

それは、キラキラ輝くように、彼女の身体の上をやさしく通りすぎて行った。


<この物語はフィクションであり、登場する人物は実際に存在しません。>


presented by 古本情熱物語